ふと

どういうわけか、私はそこにいて、好きなものはなんだろうと考えたら、紙と鉛筆と答えるだろう。きっとそうだと思う。繊維の隙間をカリカリ進む。ああ、好きなんだなと思う。分け入って行っているのか、堀って行っているのか。どちらにしても地に近いところにいるようだ。水ではないな、今は。と思う。周りを見渡しても白しかなくて、でも壁で囲まれていないから、書くところは足元しかなくて。だから、足元に近いところに、ヤモリみたいにピタッとはりついて、小さな世界を作り続ける。見えている景色があるわけではない。ただ、現れる。それに懐かしさを覚えたりもしない。ただ、腑に落ちるか落ちないかだけ。違うなと感じれば違うし、これだと感じればこれだというだけの話。それでいいんだと思う。そこが見分けられなくなったら、きっと私は真っ白になって、ここでは見えなくなってしまう。私にも私が見えないから、私は私のことも知らないまま、ここにいるということも知らないまま、きっと何も考えなくて、思わなくて、真っ白なまま、一枚の紙切れのようにひらっとそこに横たわっているだけなのだろう。雨でも降れば、濡れて気づくかもしれない。太陽が照ってカンカン照りになれば、燃えて気づくかもしれない。風が吹いたら、浮いて気づくかもしれない。でもそこには雨も日差しも、風も吹いていなくてあるのは白い白い。ただただ白。

あぁ、でも下と上と横はわかるみたい。

(空白の話1)