一つ大事なもの。

嫌いじゃないなと、感じる。

 

予報を気にせず、傘を持たずに出てしまうことがある。

建物から外に出た時の、匂いや色で、これはもしやとその時に初めて気づく。

やむ様子のない中を、歩く。雨宿りできるところを意外にないなとか、ここのテント屋根は破れてるんだなとか、軒下お借りしてすみません、とか、ほんの数分の間にいろんなことが起こる。

これが晴れている日ならほんの数十秒で移動しているところ、雨だと時間がかかる。

 

でも嫌いじゃないんだな。

薄暗い感じも、しとしとと雨音が鳴り続ける感じも、それを遠くに聞きながら違うことに没頭している瞬間も、嫌いじゃない。

冷たい、水分が多めの空気が鼻から入るとヒヤッとする。

大きく目を見開いて黒目を一周させる。

なんかこう、滲みない。

空気が滲みない。

皮膚にも、粘膜にも、優しい気がする。

雨音は細かな振動となって鼓膜を刺激する。

鼓膜の振動は全身へと広がる。人間の体は水分が多いから、ぽたんと水滴が落ちれば波紋が広がるんだな、なんて思いながら、指の先からはカタカタという音が生まれて消える。

 

音は衝撃。

ああ、だから音が聞こえるのか。

 

体を動かす細かな揺れは、きっと音からも生まれている。

動きが生まれる最初の小さな動力は、体の中の小さな爆発。

トクン、ポシャン、トゥル、トロン、トゥカン、ヒュッ。

膨張と収縮。その先の音。

 

音の衝撃。

一つ大事なもの。